
「とりあえずメジャーなメーカーで、まずは壊れないできちんと動けばいいかな?」
低圧太陽光発電投資をする中で、パワーコンディショナーをしっかりと吟味された方・吟味できる方は意外と少ないのではないでしょうか?
パネルや土地を選ぶに当たっては明確な基準を設けやすいと思います。
逆にパワコンの場合は発電をするわけではないので今ひとつ選ぶにあたって決め手にかけるところがあると感じている方は多いと思います。
実際にはパネル選びと同様にパワコン選びでも得をする方法、損をしない方法があります。
低圧太陽光発電投資では案件に合ったパワコンを選ぶ事で売電量を大幅に増やす事が可能です。
この記事は太陽光発電の設計・コンサルとして経験を積んできた私が自分のノウハウをまとめたものです。
この記事をしっかり読めば、皆さんも15分後にはパワコンマスターになれますので是非参考にしてみてください。
目次
1 売電には必須!パワーコンディショナーの役割と価格と動かし方
まずはパワーコンディショナー(以下パワコン)の役割を簡単にご説明します。
おくわしい方やパワコンの原理に興味のない方は2まで飛んでみてください。
パワコンのこと自体がよくわからない人はぜひ読んでみてください。
パワコンは上の写真のような箱型の機械です。
写真のものは中型のキャリーケースぐらいの大きさです。
パワコンがなくてもパネルは発電しますが、売電をすることができなくなってしまいます。
その理由を以下の記事で説明していきます。
1-1 パワーコンディショナーの役割 太陽光パネルの電気を「使える電気」に変換する
パワコンの最も重要な機能。それは直流から交流に変換する機能です。
電力会社の送電網や家庭内の電気は下の図の様に全て交流です。
家電製品も、電力会社の制御機器も全て交流で動くように作られています。
しかし太陽光パネルで発電される電力は直流でこのままでは使えない電気です。
この直流の電力を交流に変換する機能(AC-DC変換)がパワコンの最も基本的な機能です。
太陽光パネルで発電した直流の電気をパワコンで交流に変換し、「使える電気」に変換します。
交流に変換しないと電力会社は売電を受け入れてくれませんし、家庭のコンセントでも使えません。パワコンは売電するためには必須の装置なのです。
1-2 パワーコンディショナーの役割 パネルの最大電力を取り出すコントローラー
実は太陽光パネルには電圧を制御する機能が一切ありません。晴れの日にパネルが一枚単独であったとして、このパネルが何Vの電圧を出しているのかは誰にもわからないのです。
パワーコンディショナーのもう一つの重要な役割は発電している太陽光パネルの電圧を最も効率の良い電圧に制御してくれることです。
上の図のカーブはある一定時の気象条件の時のパネルの電圧—電流の特性曲線です。
太陽光パネルはこの曲線上のどこかの点の電圧、電流を出力するのですが、パネル単体ですとどの電圧が出ているかわかりません。
パワコンはこの電圧を制御し、点線で囲まれている四角形の面積が最大になるように制御してくれます。
これが最大電力点追従機能(MPPT機能)です。
MPPTはとても重要な機能です。詳しく知りたい方向けに末尾に技術記事を載せていますので興味のある人は読んでみてください。
1-3 パワーコンディショナーを動かすには電気契約が必要! パワコンは電力会社の電気で動く
パワーコンディショナーは電気機械ですので動かすための電力が必要です。
電力会社から電気を供給してもらい、電気代を支払いながら稼働させます。
電力会社がパワコンに電気を供給する方式は低圧発電所の場合単相式と三相式の2種類があります。
どちらを選ぶか悩まれる方も多いと思いますが、正直な話、メリットデメリットを比べた時に決定的な差はありません。
現場に高圧線が来ていれば三相でもいいでしょう。
しかし住宅地であれば単相を選んでおいた方が無難です。
ちょっとした差の部分は下の表にまとめてあります。もし条件に当てはまるのであれば参考にしてみてください。
単相パワコン | 三相パワコン | |
---|---|---|
電源電圧 | 100V/200V | 200V |
連系費用 | 安いことが多い | やや割高なことが多い |
静音性 | ほとんどがファンレスで静か | 30〜60db程度の音が出る |
変換効率 | 高い | トランス内蔵型の場合は93〜95%とやや低い |
保証 | 10年程度 | 1〜5年がほとんど |
施工費 | 台数が増えるためやや割高 | 台数を減らせるため割安 |
連系時にトランスが必要か | 不要 | トランス内蔵型でないパワコンは電力会社によっては連系に際し絶縁トランスを求められる |
単相式パワコンというのは主に家庭用に作られた機器の延長で100Vの電圧で動きます。
家庭用の電源でも動かすことができますので、電力会社への連系もシンプルです。
三相式パワコンは動力電源と呼ばれる200Vの電源で動くパワコンです。
ビル用のエアコンなどもこの動力電源で動くことが多く電気代が割安になります。
また、三相式は単相式よりも容量の大きなパワコンが多く、台数を減らすことができます。
工事や管理が楽になるというメリットも有ります。
しかし、電力会社との連系費用が割高になったり、場合によっては絶縁トランスと呼ばれる機器を追加で導入するように求められることがあります。
1-4 パワーコンディショナーの価格 低圧1基のパワコンは200万円前後
50kW以下で最大のパワーコンディショナーには大きく分けて3つのパターンがあります。
単相パワコン 5.5kW 9台 (合計49.5kW)
三相パワコン 9.9kW 5台 (合計49.5kW)
三相パワコン 9.9kW 1台 10kW 4台 (合計49.9kW)
価格はどのパターンでもほぼ同じような価格(200万円前後)になることが多いです。
高額なものであることは間違いありませんが、一般的には発電所全体のコストの1割〜2割ぐらいでパネルや施工費のほうが高額になってきます。
2 パワーコンディショナーで初心者が押さえるべきポイント
パワーコンディショナーはとても重要な機器です。
初心者でも絶対に押えて置かなければならないポイントがあります。
ここを押さえておかないと保証が受けられなかったり、過積載があまりできなかったり、故障してしまったりとかなり致命的な影響を受けてしまいます。
太陽光発電投資を成功させるにはこの項目は絶対に押さえておきましょう。
2-1 過積載率 ここで発電所の儲けが決まる!
売電単価が下がってきた今の時代では、パワーコンディショナーを選ぶ上で最も基本的な指標がこの過積載率です。
1台のパワコンの容量(kW)に対し、何ワットのパネルを何枚接続できるのか?という考え方です。
パワコンの最大入力電圧と1台あたりの入力回路数で過積載の限界値が決まります。
しかし、限界までパネルを接続するとパワコンメーカーのメーカー保証を受けられないことがあります。
あらかじめ業者に確認しておきましょう。
後ほど過積載に強いパワコンを簡単な計算で判別できる方法をお教えするので是非読んでみてください。
2-2 塩害対策 メーカー保証が受けられない場合も?塩害対策機器も出ています
海岸線からの距離によっては塩害対策をされたパワーコンディショナーを使う必要があります。
この距離基準は各メーカーや設置地域により異なるため、メーカーへの確認が必要です。
一般には海岸から500m〜2km程度の距離ですと塩害地域、500m〜1km以下では重塩害地域とするメーカーがあります。
しかし防水性能の高いパワコンでは300mまで保証可能というものや*水しぶきが掛からなければOKというパワコンも有ります。
- 水しぶきが掛からなければ保証可能という条件はメーカーに問い合わせると出てくる答えです。Web文章では記載されていませんでした。
- 念のため都度メーカーに問い合わせてください。
海岸から300mまでメーカー保証が効く山洋電気 5.5kWパワコン
上記マニュアルの8pに「300mまで」と言う記載がなされています。
海のしぶきがかからなければメーカー保証が効くソーラーエッジ24.75kWパワコン、SMAパワコン
*筆者が業者を通して確認した情報です。実際に設置する際には必ずメーカーに補償条件を確認してください
2-3 騒音対策 住宅地の場合は単相のパワーコンディショナーで周辺トラブル回避
住宅地で発電事業をする場合、パワーコンディショナーの動作音が騒音として問題になる場合があります。
特に三相式のパワコンで冷却ファンが内蔵されている場合、案外大きな音になります。
実際に騒音問題として苦情を言われるような事例もでてきていますので、住宅地の場合は各メーカーが出している静音性のデータを確認しておきましょう。
ルームエアコンの室外機の騒音が60db程度です。(パナソニック CS-J226C)
よく比較される国内三相パワコンの田淵電機は定格運転時で51dbです。
エアコン室外機での騒音トラブルも世の中にはあるにはあります。
住宅地であればファンレスパワコンを選ぶことでトラブルを未然に防ぐことができます。
2-4 メンテナンス ファン付きのパワーコンディショナーは要注意
ファン周辺やケーブルの穴からどうしてもゴミや虫が入ってきます。
ひどい場合はパワコンの中にアリの巣ができていたと言う事例もあります。
冷却ファン式のパワーコンディショナーは特に注意して定期的にメンテナンスを行う必要があります。
ゴミや虫が付着している場合や、パワコン内部に溜まってしまっているは掃除をしておけば大丈夫です。
また、「キーーーン」というモスキート音やスイッチの切り替え音は通常の動作音ですので問題ありません。
ただ上記以外の音や「ブーーン」というモーター音の場合は不具合が発生している場合もありますのでメーカーに問い合わせてみてください。
2-5 設置方法 故障を未然に防ぎ、メーカー保証を確実に取り付ける
パワーコンディショナーを設置する際に絶対に守らなければならない条件があります。
2-5-1 絶対条件です! 日陰に設置しましょう
パワコンは温度が高くなりすぎると出力が下がり、ひどい時には動作を停止してしまいます。
ですのでパネルの下や屋内などの涼しいところにおく必要があります。
多くのパワコンは高温状況下では出力が低下しますので売電収益を減らさないためにも日陰設置は必須です。
2-5-2 パネル位置が低すぎると保険には入れない 50cm以上の高さに設置
雨の侵入を防ぐためと水害対策、ホコリ対策のため、パネル下面から地面まで50cm程度の高さを保持することも設置条件になってきます。
設置高さを守らないとメーカーが保証してくれない場合や保険には入れない場合もあるので注意してください。
2-5-3 隣のパワコンとは規定の距離を取って設置
こちらも同じようにメーカーによって隣のパワコンとの距離を指定している場合があります。
施工説明書に書かれているのでご注意ください。
3 対処法まで教えちゃいます!パワーコンディショナーのトラブルの種類
パワーコンディショナーの役割はお分りいただけたかと思います。
パワコンはとても重要な機材ですが、逆にトラブルが多いのもこのパワーコンディショナーです。
しかしあらかじめ壊れる可能性があるということがわかっていれば対処方法もわかります。
リスクを予見しておくことは投資の基本中の基本!
3-1 パワーコンディショナーはここが壊れる! パワコンのトラブルパターン
20〜30年の製品寿命を持つ太陽光発電パネルと異なり、パワーコンディショナーは動作部分を持つ機械です。パワコンでトラブルが起こりやすいパターンを分類してみました。
3-1-1 冷却ファン由来のトラブル
機種によってファンレスタイプと冷却ファン内蔵タイプがありますが、このファン自体が故障するようなケースです。
機械的故障ではなくてもファンに動物や昆虫がくっついて(カエルやアリやてんとう虫など)、それが原因で他の部分の故障に繋がってしまったというお話もあります。
ファンレスの物のほうトラブルが少ないというのが一般的です。
遠方でこまめなメンテナンスができ無いという方には特にファンレスのパワコンがオススメです。
3-1-2 接続端子のトラブルは初期不良が原因
太陽光パネルから伸びるケーブルを接続する部分です。

写真は山洋電気の5.5kW単相パワコンの接続端子に実際に接続されている様子です。
この部分でトラブルになるのは初期の施工不良があった場合と、ファンやケーブル穴からゴミや虫や昆虫が入り込んだりしたようなパターンです。
この二つのトラブルは初期不良点検と定期点検をしていくことでかなり防ぐことができます。
年次点検や年中の点検をしっかりしていきましょう
3-1-3 基盤のトラブルは経年劣化や雷などの外的要因が原因
基盤のトラブルは初期不良か異物によるトラブルと落雷等によるトラブルです。
ここがトラブルを起こすと修理というよりは基盤の交換となるケースが多く、ある程度時間がかかってしまいます。
早めの対応が必要になります。
3-1-4 リモコンコントローラーにもトラブルの可能性あり
機種によってはパワコン複数台連系を制御するためにリモコンコントローラーがついている機種があります。
このリモコンが壊れるということもあります。
リモコンは動作部品と言うよりは制御部品です。
壊れるとすれば経年劣化が多いのではないでしょうか?
3-1-5 経年劣化でいつか必ず壊れるのがインバーター(AC/DC変換機能)
直流を交流に変換するインバーターは可動部分であり、経年劣化による故障が最も予想される部分です。
ここは交換計画をあらかじめ立てていくのが良いでしょう。
ある国産メーカーによると部材の故障率をかけ合わせて出した20年の故障率は4%程度。
実際は10%程度になると考えているとか。
必ずしも11年目に全パワコンを一気に交換する必要はありませんが、5〜9台での運用をされる方が多いでしょう。20年で全体の3〜4割は交換する計画は立てておくべきでしょう。
3-2 10年交換のリスクで有利なパワーコンディショナー 保証と故障を考える
パワーコンディショナーの寿命(特にインバーターの寿命)は概ね10年と言われています。
もちろん前述した通り10年たったら全て交換する必要があるかといったらそうではありません
しかし、20年間の発電事業をする上で、ある程度は交換する必要はあると思っておいたほうがいいでしょう。
一般論ですが、家庭向けを念頭に作られている単相パワコンは10〜20年と保証期間が長い傾向があります。
逆に産業用を念頭に作られている三相パワコンは1〜5年と保証期間が短い傾向があります。
20年の事業に合わせ、20年保証をしているメーカーがあまりないというのがパワコンの保証の特徴ですが、逆に考えると10年後にその時の最新のパワコンに切り替えるチャンスであるという考え方もあります。
実際、ここ数年でパワコンは大きく変化しているので、向こう10年の変化がとても楽しみな分野です。
ただ、1年保証というのはちょっと心許ない気もします。1年保証の三相パワコンを選ぶ際は延長保証か火災保険には必ず入りましょう。
以下にお得な保証情報を載せておきます。
(2017年5月15日)
メーカー/機種 | お得情報 |
SMA単相4.5kWパワコン | 工場出荷時で10年の保証付 有償で5年、10年と伸ばしていける |
山洋電気単相5.5kWパワコン | 通常一年保証だが、施工報告書の提出で10年保証に無料で延長可能 保証期間内に故障した場合、山洋電気が取り付けまで実施してくれる「オンサイト保証」。 海岸から300m以上離れていれば保証可能。 |
オムロン単相5.5kWパワコン KP55M | ソーラーフロンティアからの購入であればパネルメーカーのオプションで15年保証が可能 |
ソーラーエッジ三相パワコン | 三相ではあるがもともと10年の保証がついてる。有償オプションでもう10年延長可能。 |
4 パワーコンディショナーで儲ける方法 パワコンで発電量を増やす!
パワーコンディショナー自体が発電をするわけではありませんが、パワコンで発電量・売電量を増やす方法は2つあります。
4-1 過積載で発電量を大幅に増やす!
最も基本的な発電量の増やし方が過積載です。
パワーコンディショナーの容量よりもパネルを増やしていくと、晴天時には発電量のピークで電気を捨ててしまうことになります。しかし、そんなに理想的に晴天が続く日ばかりではありません。
多少日射が悪い日でも多くの発電をしてくれる過積載型の発電所のほうが利回りはいいということが経験上わかってきています。
専門家が使うシミュレーションツールであまり過積載をかけていない発電所(58.3kW)と超過積載型発電所(95.4kW)の発電所を比較してみました。
4-1-1 シミュレーション条件1 過積載率120%の発電所の場合
【場所】 長野県 佐久市
【構成】 パネル ジンコソーラー多結晶265W 220枚(58.3kW)
パワコン SMA 9.9kW 5台 (49.5kW)
【結果】
年間発電量 PV発電量(グラフ青) 72,630kWh
発電電力量(グラフ赤) 70,087kWh (変換効率96.5%)
21円(税別)で売電した場合の売電収入 年間1,471,831円(税抜)
4-1-2 シミュレーション条件2 過積載率190%の発電所の場合
【場所】 長野県 佐久市
【構成】 パネル ジンコソーラー多結晶265W 360枚(95.4kW)
パワコン SMA 9.9kW 5台 (49.5kW)
【結果】
年間発電量 PV発電量(グラフ青) 118,865kWh
発電電力量(グラフ赤) 106,424kWh (変換効率96.5%+ピークカット8%)
21円(税抜)で売電した場合の年間売電収入 年間 2,234,913円(税抜)
4-1-3 過積載をして得をした!
パネル容量を1.63倍にアップさせたこの超過積載発電所。
発電量は1.52倍にアップするということがわかりました。
もちろん過積載をすることにより、架台とパネルは増額してしまいます。しかし、パワコンの金額は変わりませんので総合的には割安になります。
また過積載型発電所の4月から8月ではピークカットの影響も多く見られます。
売電量アップとコストアップとピークカット。これらの天秤をしっかりとかけながら計画を立てましょう。
パネルのワット単価が下がってきている現在では過積載は積極的に仕掛けたほうが特になることが多いです。
パワコンごとに接続できるパネルの容量が異なります。
過積載を安全にやっていきたい方は「どのパワコンにはどれくらいのパネルを接続できるか?」ということをある程度わかっておく必要があります。
この部分は第5章「過積載をするためのパワコンの評価の仕方」で詳しく書いていきます。
4-2 パワーコンディショナーの性能で増やす (変換効率)
メーカーやパワーコンディショナーの種類により93〜99%と色々と変換効率が異なります。
変換効率が高いということはそれだけ売電量が増えるということになります。
三相パワコンでトランス内蔵のものですと、93%程度の変換効率まで落ちてしまいます。
気をつけなければいけないのが、ここでトランスレスの三相パワコンを選んだ場合です。
連系時に電力会社の指示でトランスをつけなければならないことがあります。
こうすると結局そこで売電効率が落ちてしまいます。
電力会社によってこの判断が別れてきますので、実際に工事をする前に問い合わせておきましょう。
単相パワコンの絶縁トランスは求められていませんし、パワコンにも内蔵されていない為変換効率はやや高めになっていることが多いです。
4-3 パワーコンディショナーの性能で増やす (MPPT)
パワコンには「最大電力追従機能」という機能があります。発電しているパネルから最大の電力を取り出す重要な機能です。MPPT回路の説明はかなり専門的になるので文末に別途記載しています。詳しい説明はそちらをご覧ください。
このMPPT回路がどれくらい細かく分かれているかというのも一つの考え方になります。
1つのMPPT回路は1種類の動作電圧でしか最適化できません。ここでいう動作電圧はほぼパネルの直列枚数で決まると思ってください。
例えばSMA三相パワコンは1台で1つのMPPT回路です。6口ある入力端子には全て同じ枚数のパネルを接続する必要があります。
田淵の三相パワコンは5つの入力端子全てに別個のMPPTがついています。つまり全ての入力端子にバラバラの枚数のストリングを接続することができます。
また、ソーラーエッジパワコンはパワコンからMPPT機能を外出しし、1〜4枚のパネルの脇に「オプティマイザー」という形で配置していくタイプです。
この場合、MPPTはパネル1〜4枚単位で最適な制御が可能になります。
MPPTが細かいことの利点としては、パネルの劣化や故障、そして日陰に強くなるという点です。
技術的な内容は記事の最後に纏めてありますので興味のある方は読んでみてください。
ちょっとした日陰で1枚のパネルの動作電圧が下がった場合、1つのMPPT回路しかないパワコンではそのパワコンに繋がれているパネル全体が発電量の低下を招く可能性があります。
MPPT単位が細かいパワコンであればこのような可能性を回避できます。
5 過積載をするためのパワーコンディショナーの評価の仕方
太陽光発電投資で効率よく収益を上げる最も大事な方法。それは日照条件がよく、安い土地に対し割安のコストで最大のパネルを接地することです。
その条件を満たすためのパワーコンディショナーの選び方は何と言っても「過積載」です。
ここではこのサイト独自の「過積載指数」という数字を使い、過積載に強いパワコンの簡単な考え方をお教えします。
実際にコンサルとして発電所の設計をしている私はこの考え方でパワコンの実力を測っていますし、そうでない方も直感としてはこの考え方で「過積載ができるかどうか?」を判断しています。
過積載指数はその「直感」を簡単に見える化した数字です。
5-1 過積載に強いパワーコンディショナーはこれ! 独自の計算方法をお教えします
チェックするのは3点です。パワーコンディショナーの「容量」「最大入力電圧」「入力端子数」です。
パワコン容量から台数を求める
パワコン容量から低圧の50kW以下で導入する台数を求めます。
49.5kWの容量で発電所を作る場合、9.9kWパワコンであれば5台、5.5kWパワコンであれば9台です。
最大入力電圧と入力端子数を調べる
メーカーのスペックシートから最大入力電圧と入力端子数を調べます。
最大入力電圧が記載されていない場合「運転可能電圧範囲」や「動作電圧範囲」の最大値です。
入力端子数もチェックします。
パワコンによっては「回路数」と表記されていたり「入力数」と表記されていたりしますのでご注意ください。
接続できる端子の数になりますので、困った時はメーカーに「パネルを接続する入力端子の数を教えてください」と問い合わせてみましょう。
下の図はあるメーカーのスペックシートです。
この3つを掛け算した数字が過積載のしやすさの目安になります。
ここではこの数字を「過積載指数」としてみました。過積載指数はこのサイトの独自指標ですのでご注意ください。
過積載指数(当サイト独自数値) = パワコン台数 × 最大入力電圧 × 入力回路数
代表的なパワコンで過積載のしやすさを比べてみましょう。
オムロンの三相パワコンと安川電機の三相パワコンが電圧、入力端子の条件が良く過積載に向いているということがわかります。
また単相パワコンではSMA4.5kWパワコンがとても過積載向きです。
2018年1月31日追記 田淵電機に分岐ケーブルを使ったさらなる過積載の新手法が誕生しました。詳しくは()で
しかし、過積載指数16200の山洋電機5.5kWパワコンでも90kW前後の過積載が可能であることを考えると、このレベルでも十分合格点と言えるのではないでしょうか?
5-2 実際に何枚接続できるか考える パネルの解放電圧で割り算
では実際に過積載に強いパワーコンディショナーがわかってきたところで何枚接続できるかを具体的に計算してみましょう。
パワコンの回路に接続可能な直列枚数 < パワコンの最大入力電圧 / (解放電圧 × 1.1)
必要なデータは接続するパネルの「解放電圧」です。
パネルメーカーや出力によって解放電圧は異なりますが2017年5月現在の状況では概ね40V前後です。
太陽光パネルは温度が下がると電圧が上がる特徴があるので、低温時のことを考慮し、安全率として1.1倍しています。
一般にパネル電圧の温度計数は-0.33%/K前後であることが多いです。
これは25度の標準状態より温度が約3度さがると1%電圧が上がることを意味します。
標準状態より30度下回った-5 度の時の解放電圧は約10%上がる計算になります。
真冬の-5度の朝、いきなり直射日光が「ドカンと」当たった場合、解放電圧の1.1倍の電圧がパワコンに一瞬かかります。
この時にパワコンの最大入力電圧を超えないように組みましょうというのが上記の式の意図です。
実際の構成
計算方法と実際の計算例を下の図にまとめてみました。
SMA 9.9kWパワコン (SUNNY TRIPOWER 10000)
最大入力電圧 600V 入力端子数 6端子
ハンファQセルズ Q.PLUS BFR-G4.1 285W
解放電圧 39.22V
計算式
この枚数はあくまでも「論理的に接続可能な枚数の簡易計算方法」です。
この数字のほかに、メーカーが保証する上限値というものがあります。これは公表されていないのでメーカー保証を重要視する方はメーカーに問い合わせる必要があります。
一度計算してみた上で、その枚数でメーカー保証がつくかパワコンメーカーに確認しておく必要があります。
200%以上の過積載を仕掛けたい場合、現在の所はSMAの三相パワコンかオムロンの三相パワコン対応可能です。
6 それぞれのメーカーの特徴
専門家であればいきなりここから読んでもわかると思うんですが、一般のユーザーはそうではないと思います。
しかし、ここまで書かれてきた内容を読まれた皆様ならわかるはずです。
MPPTが細かく影に強いソーラーエッジと田淵電機
過積載に強い安川電機、SMA、オムロン
10年保証が手厚い山洋電気
さあ、パワコンメーカーの特徴を見にいきましょう!
6-1 200%過積載のSMA、安川電機、田淵電機とそれを超えるオムロン
過積載を容認してきたパワーコンディショナーメーカーといえばSMAです。
電気的に許せるレベルであればどんどん入れても構わないという立場です。
昨年発売されたオムロンの三相パワコンも同様に「電気的に可能な範囲であれば無制限」というスタンスです。
オムロンは230%近い過積載が可能なパワコンということになります。
*SMAの単相パワコンは保証を受けるための過積載率200%以下という制限がかけられています。
(2018年1月31日追記)
*田淵電機が過積載用の分岐ケーブルを採用しています
*この分岐ケーブルを使うと1つの入力端子に今までの倍の枚数を接続することが可能です。
*200%を超える大幅な過積載が可能なメーカーになりました。
*理論上は300%近い過積載が可能になります。
対応機種
EPC-S40MP2-L/EPC-S49MP3-L/EPC-S55MP3-L/EPC-S55MP4-L
EPC-S99MP5-L/EPC-S99MP5-CL/EPU-T99P5-SFL
6-2 パワコン新時代突入!工事費・管理費・売電額 3つも得するソーラーエッジ
最近起こったパワコンの最大の変化がこのソーラーエッジパワコンです。
パワーコンディショナーからMPPT機能を取り外し、パワコンは直流交流変換機能に特化しました。MPPT機能は別に「オプティマイザー」という小さな部品をパネル2枚ごとにつけていき、パネル側で制御をかけていきます。
こうするとMPPTの単位がとても小さくなり、故障や日陰にとても強い発電所にすることができます。売電額も上がりますし、管理・監視もとても楽になります。
またパワコン側は機能がシンプルになるので価格も下がり、寿命も延びます。当然保証も手厚くなります。(三相パワコンなのに標準で10年保証)
さらに、ソーラーエッジはケーブルの組み方が単純化できるので工事費(材料費)も削減できるというデータが出ています。
2枚単位のMPPT制御で売電量を増やし、保証と寿命でメンテ費を削り、施工性の高さで工事費も落とせる。それがソーラーエッジパワコンの特徴です。
ソーラーエッジパワコンの保証適用範囲は200%までとなっています。
ソーラーエッジは交流側の出力電圧が400Vと高電圧ですので、200Vに減圧するための「ダウントランス」が必要になります。こちらのトランスも決して安くはないんですが、
6-3 MPPTで差をつける田淵電機
従来型のパワーコンディショナーとしては画期的と言える「マルチストリング型MPPT制御」を実現したのが田淵電機の三相パワコンです。
1つのパワコンに5つのMPPT 回路が備わっており、すべての入力端子にバラバラの枚数、バラバラのパネルを接続することができます。
ソーラーエッジ同様自由にレイアウトが組めるので、斜めの土地などでもおすすめです。
ただし、ファンの故障が多く報告されており、メンテナンスは要注意になります。
6-4 手厚い保証の山洋電機
山洋電気は単相5.5kWパワコンがおすすめです。
過積載に強いという点もありますが、それでいて10年のオンサイト保証(現地での交換費用まで含めた保証)がつくというバランスの良さがおすすめポイント。
SMAの単相パワコンも10年の保証がつきますが、こちらは故障した場合パワコン本体が現地に送られてくるだけで設置はオーナーが自分で責任を持つ必要があります。
その点山洋電気は交換の手間まで込みの保証です。
一次対応(故障かどうかの判別)は保証に含まれませんが、故障していること自体をきちんと突き止めれば、そこから先はメーカー保証の範囲になるというのは安心ですね。
6-5 コストで勝負しているデルタ電子
コストの安いパワコン自体は他にもいくつもメーカーはありますが、出しているメーカーの安定性と比較した場合に特に安いと感じるのがデルタ電子です。
ただ、過積載に関してはやや踏み込みが弱く、過度な過積載は実現できません。
土地の面積などと相談しながら規模をそこまで広げられない時に事業性を高めるための選択肢として出てくるパワコンです。
7 まとめ
今回はパワコンの決定版記事を書いてみました。
パワコンは発電するものではないので明確な判断基準を持つのはとても難しいものだと思います。
しかし今回の記事を参考にし、自分の案件内容と対比させることで「選んではいけないパワコン」や「案件の不利な点を消すことができるパワコン」があるということがわかりますよね。
これらを軸に、自分の案件に合わせてパワコンを選んでください。
技術詳細記事 (MPPT制御について)
本文中には触れませんでしたが、MPPT制御とは何か、その内容について書いていきます。
太陽光発電パネルはIV曲線という性質にしたがって発電します。
下の図はある一定の温度の時のパネルのIV曲線です。
パネルから一切電力を取り出していない時の電圧が解放電圧です。
パネルのプラスとマイナスのコネクタに電線を接続し、電気を取り出すと電圧は少しずつ下がり、抵抗のほぼない電線でプラスとマイナスを直結させると最大の電流が流れますが電圧はゼロになります。
パネルはこの曲線状のどこかの点にあたる出力を出すことができます。
この時最大の電力(電流×電圧)を取り出せるようにコントロールするのがパワコンのMPPT制御機能(最大電力追従機能)です。
仮にMPPT制御がうまくいっていないようなパワコンがあったとしましょう。(制御回路に故障があった場合)
間違って緑の点で電力を取り出してしまった場合、長方形の面積は最大値と比べ半分程度になってしまいます。
このようなことが無いように制御していくのがパワコンのMPPT 制御機能です。
また、故障しているパネルや、一部影がかかったパネルの場合も見てみましょう。
パネルに故障があるとIVカーブが下のように乱れてします。
通常パワコンはパネルを6〜10枚程度を直列につないだ「ストリング」という単位をパワコンの入力端子に接続しMPPT制御をかけていきます。
上記のような異常のあるパネルが混ざっているとMPPT制御を適切行うことができなくなり、ストリング全体の発電量に影響を及ぼす形になります。
ですので、MPPT単位の細かいパワコン(田淵電機やソーラーエッジ)などはパネル故障や影に強いのです。