18円の案件でも年間258万5000円も発電するのか・・今のパネルはすごいんだな・・・
そう思ったあなた。
ひょっとするとそのシミュレーションを作った業者はとても喜んでいるかもしれません。
舌をぺろっと出しながら・・・
固定価格全量買い取り制度により安定した収入が期待できる太陽光事業。
しかしその売電予測額はパネルメーカーや販売業者が作った「発電シミュレーション」というたった1枚の紙が元となっています。
太陽光発電事業は2000万円近い投資です。
この発電シミュレーションはとても重要なのは言うまでもありませんがシミュレーションをするのに資格やルールはありません。
そのシミュレーションが信頼できるものなのかを自分で判断できる事がとても重要なのです。
「売電収入」を予測する発電シミュレーションが正しいのであれば、「事業利益」を予測する事業シミュレーションを作る事ができます。
しかし、もしもその売電シミュレーションが間違っていたり、嘘が書いてあったらどうなるでしょうか?
太陽光発電事業をする上でとても重要なこの2つのシミュレーション。
この記事では前半で売電シミュレーションを詳しく解説します。
しっかり理解できればシミュレーションが正しいかどうかはすぐにわかります。
そして記事の後半では事業シミュレーションを解説します。
金融機関が評価するのはこちらのシミュレーションです。
この記事を読んで2つのシミュレーションを味方につけることが太陽光発電事業成功の鍵になります。
目次
1 太陽光発電のシミュレーションとは 発電シミュレーションと事業シミュレーション
太陽光発電事業の検討を進めて行くと必ず出てくるのが「パネルメーカーの発電シミュレーション」です。
年間どれくらい発電し、それがどれくらいロスし、どれくらいの売電利益が出るのかを試算した物です。
きちんとした根拠を持ってシミュレーションしてくれるので銀行もしっかりと評価してくれます。
ではこれで安心なのかというとそうではありません。
まずこの発電シミュレーションが本当にあっているのかを確かめる必要があります。
ちょっと条件を変えると案外違った結果が出てくることがあるので、その条件が現実にあっているかをチェックするのは発電事業をする本人の仕事です。
また、発電シミュレーションが正しい数字だったとしてもそれを20年の事業として「事業シミュレーション」を計算するのも発電事業者本人の重要な仕事です。
1-1 パネルメーカーの発電シミュレーションのチェックの仕方
実際にあるパネルメーカーがシミュレーションしたシートを見てみましょう。
私が個人的に所有している新潟県の案件のシミュレーションになります。
1-2 まずは基本情報をチェック 現実とあっているか
私が購入の段階でチェックするのはまず、①番で囲まれた情報です。
これは太陽光発電所の基本情報になります。
場所(新潟県三条市)、パネル容量(98.58kW)、方位角度(南向き)、パネルの勾配(25度)これらの情報が現実とあっているかを確認します。
1-3 次にチェックすべきはその発電所の売電量
私であれば次に発電量、売電金額をチェックします。写真の②にあたる部分です。
ここでは91,336kWhの発電が期待できると記載されています。
この発電予測値(kWh)をパネルkW数で割ってみましょう。
ここでは 91,336kWh / 98.58kW = 926.5 という数字が出てきます。
実はこの数字がこのシミュレーションがどれくらい確からしいかを判断する一つの指標なのです。
日本の平均的な日射であればこの数字は概ね1050近辺になります。
そして日射量のいい長野県南部や九州地方ではこの数字は1200近辺です。
日射の悪い新潟近辺では950近辺になる事が多いので、このシミュレーションは大体推定される数字と近いという事がわかります。
NEDO(産業技術総合開発機構)が各地の日射量をデータベース化しています。
ご自分の発電所の地域と見比べ、どれくらいの掛け率を使うべきかを勘案してみるといいでしょう。
1-4 考慮している条件をさらにチェック!
そしてもう一つ重要なのが図の③に記載されている条件です。
ここにはシステム損失や温度損失、パワコン損失、その他の損失などが記載されています。
このシミュレーションはパワコンによる損失や温度損失は考慮されていますが、ピークカットによる損失は組み込まれていない事がわかります。
過積載
パワコンの容量よりも過大なパネルを接続する事で発電量を増やす仕組み。
ピークカット
大幅な過積載を仕掛けると発生する電気を捨てる現象。パワコン容量以上の発電はできないため、晴れた日の昼間は電気を捨てる事になる。
また、積雪や影による影響も組み込まれていません。
つまり、実際の発電量はこのシミュレーションよりも下回る可能性があるという事になります。
1-5 実際の売電量と比べてみるとどうだったか
この発電所をシミュレーションと実発電量で比べてみるとどうなるでしょうか?
まだ1年が経過していないのですが、大体の傾向はこれで見て取れます。
雪国の新潟では12月、1月、2月は当然積雪があります。
パネルの上に雪が積もっている状態で日が差しても発電しませんから当然その時期はシミュレーションを下回ります。
一方、3月〜5月はというと、、、シミュレーションに近い数字を行ったり来たりしているような状況だという事がわかります。
今年の5月は記録的な日射量でしたのでピークカットがあってもシミュレーションの値を大幅に上回りました。
200%近い過積載を仕掛けているこの発電所は5〜8月のピークカット率は6〜10%と推測されます。
それ以上の発電があったという事ですね。
2 悪徳業者や心配性業者に影響されない為の発電シミュレーションの見方
パネルメーカーのシミュレーションではなく、販売業者が発電シミュレーションを作っていくことも多くあります。
そうすると「このシミュレーションちょっと盛ってるんじゃないの?」なんて事もありますし、逆に「いやぁ、この場所、この規模の発電所ならもっと発電するのでは?」なんて事もあります。
もちろん「発電量を盛っている」のが一番困りますが、「心配だから控えめに出しておこう」と言うのも銀行の融資が通らなかったりしますから実は困るんです。
2-1 まずは前提条件をチェック! 地点・角度・パネルをチェックしよう
まずは1章で確認した通り、前提条件をチェックしましょう。
パネル容量、枚数。
パネルの設置角度、設置方位。
設置地域と周囲の日照条件(日陰がないか)
この辺の状況がわかると自分でもシミュレーションをすることができます。
自分でシミュレーションをして確かめ算をしてしまうのが一番確実です。
ちょっと面倒なところはあるのですが、それでも20年の事業のリスクをほんの一手間で回避できるのですから安いものです。
2-2 ピークカットは考慮されているのかチェック
1章ではピークカットが考慮されていない状態のシミュレーションを見てみました。
それではピークカットが考慮されているシミュレーションを見てみましょう。
グラフの青い帯がパネルベースの発電量で赤い帯がパワコンベースの売電量です。
黒い点線で囲んだ日射のいい時期はパネル発電量とパワコン売電量に大きな差がある事がわかります。
どうやらこの発電シミュレーションはピークカットを考慮した発電所だという事がわかります。
もしも、このようなグラフが付いていないのであれば、正直に業者さんに聞いてみるのがいいと思います。
もしピークカットが考慮されているのであれば、念のためピークカット前の数字も聞いてみるといいでしょう。
その数字が自分の出したシミュレーションとどれくらいずれているかを確認すると信憑性が出てきます。
2-3 雪・抑制などシミュレーション不可能要素を追加
ここは判断が分かれるところではありますが、雪の影響や影の影響はシミュレーションがとてもしにくいという特徴があります。
東北地方の太平洋側や山沿いでは大雪が降ったかと思ったら翌日は快晴何て事が意外とあるのです。
こんな時は周囲の発電所の稼働実績を実際に教えてもらうのが一番手っ取り早い方法です。
太陽光発電所のオーナーが集まったfacebookグループの「太陽光発電ムラ」であれば全国各地の発電所オーナーと交流をする事ができますからこういったデータも教えてくれる事でしょう。
雪国で太陽光発電事業をする方は、12月〜2月の発電量はメーカーシミュレーション値の半分以下だと思っておくと現実に近づきます。
2-4 九州電力 四国電力の出力抑制の影響はどうすればいいか
また九州電力、四国電力では「無制限・無保証の出力抑制」が実際に始まっていますが、これも業者やメーカーが作ったシミュレーションには含まれていません。
自分の事業計画を作る際はある程度の出力抑制制御が発生してもきちんと事業が回る計画を立てておく必要があります。
最近の傾向からすると年間売電収入の3%近辺の出力抑制が発生しているという人もいます。
九州も四国も元々日射のとてもいいエリアです。
雪国で発電事業をしている私からしたら無視できるレベルと考えるのですが、融資をする銀行はそうは考えないでしょう。
悩ましいところですが、銀行には自信をもって「3%までは計算している。その倍の6%の抑制がかかっても事業が回るシミュレーションをしている」と答えられたら説得力があると私は考えます。
2-5 周囲の影の影響を想像してみよう
発電所の現地に行かないとわからない情報ですが、東西南に影になるようなものがあるかどうかは確認する必要があります。
これはSUN SEEKERというi phoneのアプリで撮影した画像です。
この場所では12月の冬至の頃は9時半くらいまで日が差さないという事がよくわかります。
よくあるのが南側に電力会社の連系柱があるパターンです。
年間数%の損失になる可能性があります。
もっと悲惨なのは東西に高い山や林があり、日照時間が減っているケースです。
太陽光発電のコアタイムは9時〜15時くらいです。
この時間の日照時間はしっかり確保できる発電所であれば大きな心配はいりませんが、そうでないのであればその分の発電減少は事業計画に盛り込む必要があります。
業者さんの持っているシミュレーションツールで試算することが可能なことがほとんどですから交渉してみましょう。
2-6 実発電量を確認しよう
実際に260万円のシミュレーションを信じて買った発電所が50万円〜100万円少ないという事例がありました。
かなり極端な例ですが、周辺の発電所の情報や同じ販売業者さんの他の物件の発電実績があれば是非見せてもらいましょう。
発電実績に勝る資料はありません。
3 事業シミュレーションで「本当に利益が出るか」を見る
発電シミュレーションが妥当なものだと判断できたら、次はいよいよ事業シミュレーションです。
多少影がかかろうが、結局は「初期コスト・ランニングコスト」と「売電収入」のバランスで事業性が決まります。
3-1 初期コストを計算する
確実な売電収入があったとしても初期コストがかかり過ぎていて黒字が出ないのでは全く意味がありません。
それでは簡単な計算方法を見ていきましょう。
3-1-1 分譲商品の初期費用は本体以外の金額を確認すればOK
完成した発電所を業者から購入する分譲商品の場合は初期費用は業者が提示してくれる金額だと思えばいいでしょう。
フェンス施工費、監視装置、連系負担金、土地代、管理費用などが含まれているのか、別なのかを確認すればおしまいです。
3-1-2 自作型の発電所は土地、部材、施工費を積み上げる必要がある
もっと大きな利回りが期待できる「自作型」の発電所の場合はもう少し計算をしていく必要があります。
土地代、大まかな部材費用、大まかな工事費用を見積もり、連系負担金を想定して積み上げていきます。
<部材費用>
発電ムラ市場の過積載セットを参考にしてみてください。
>> 発電ムラ市場過積載セット
このセットに乗っていないパネル・パワコンももちろん問い合わせ可能ですが、過積載率などを計算済みのセットなので安心して設計に組み入れることができます。
パネルメーカーの経営安定性を重視したセットなので価格の割に品質が高いお得なセットです。
<工事費用>
工事費用は土地の形状、地域、時期、工事店さんによっても変わってきます。
ただ、最近は人手不足が目立ってきており、工事費用はなかなか落としづらい状況にあります。
極端に安い工事費用はなかなか望めない状況にあると思ったほうがいいでしょう。
工事費用の目安は整地済みの土地であればパネルkWあたり4〜5万円(税別)です。
ちょっと割高な金額を記載していますが、これくらい見ておけばとりあえず発電所を作ることは可能なケースがほとんどです。
<土地代>
土地代はもう本当に地主さんとのすり合わせになります。
その土地の価値に見合った金額が出てきます。
kWhあたり14円買取価格となっている2019年の相場観としては坪あたり3000円くらいが一つの目安になってきます。
もちろんこれより高いからといって事業が即成り立たないわけではありませんからよく検討してみてください。
<連系負担金>
連系負担金は「申し込んでみないとわからない」という世界です。
電力会社が電柱1本を余分に立てなければいけない場合はそれだけで20万円近く負担金が跳ね上がります。
目安としては電力会社の電柱までの距離が、低圧がメーター千円 高圧がメーター1万円と言われています。
最寄りの電柱が隣接しているとありがたいですね。
<登記コスト>
土地を購入した場合は登記する必要が出てきます。
また、発電所を担保に入れる場合も登記が必要です。
「登記は自分でできる」というツワモノもいますが、慣れない作業が苦手な方は司法書士さんにお願いするのが無難です。
3-2 ランニングコストを計算する
太陽光発電所を運営する上でのランニングコストは以下のものになります。
<税金>
発電所自体には償却資産税、土地固定資産税がかかります。
また利益が出た場合は所得税が発生します。
<メンテナンスコスト>
業者さんにお願いする場合は年間8〜20万円程度のメンテナンスコストが発生します。
メンテナンスの内容によって金額が変わってきます。
遠方の発電所であれば「駆けつけ対応」が入っているメンテナンスがオススメです。
停電や落雷などで発電所の稼働が止まった場合、監視装置で見ていても「結局何をしなければいけないのか」がわかりません。
最後は現場に駆けつけてくれる人が必要なのです。
また業者に頼らない場合は自分で雑草対策や日常監視を行う必要があります。
<保険>
太陽光発電所の保険はとても重要です。
オプションをつけるとどんどん高くなりますので必要な保険、不要な保険を整理して申し込む必要があります。
<故障対策・不慮の自体に対応するコスト>
厳密に言うとコストではないのですが、何かちょっとした不備や故障があった時の現金は持っておいたほうがいいです。
2、3ヶ月分の返済額は手元にあった方がいいでしょう。
3-2 20年の収支を計算する
このエクセルシートから計算をすることができます。
黄色のセルに初期条件を当てはめていってください。
パネルの劣化率も計算されていますから20年の事業をある程度説得力を持ちながら推測することができます。
3-3 修理費用・撤去費用を計算する
最後に発電所の修理費用・撤去費用を計算しましょう。
パワコンは10年程度経過した段階で故障する可能性があります。
個人的には3割程度のパワコンは交換しても破綻しないような事業計画を組んでおくべきだと思っています。7年目くらいから15年目くらいにかけて、少しずつ交換が起こるような積立の仕方をしておくのが無難です。
また、今年(2019年)から発電所の撤去費用を積み立てることを国が求めてきています。
積立の時期、金額は細かく定められてはいないんですが、経産省の資料を読み込むと最終的にはシステム費用の5%程度を用意する計画にしておくような形になる形になっています。
2000万円の発電所であれば100万円が目安です。
最終年度の売電収入から全額賄えるのですが、国は「積み立てる」ことを要求してきています。
無駄な積立は「死に金」になってしまうのでもったいないのですが、いい制度になるようにしっかり注目していく必要があります。
4 銀行に提出する事業シミュレーションはどうすればいいのか?
さて、ここまで太陽光発電のシミュレーションが理解できたらもう直ぐにでも銀行に持ち込むことが可能です。
銀行には「メーカーや業者の売電シミュレーション」と「自分がそれを正しいと思う根拠」をつけてあげましょう。
例えば「NEDOで公開されている数字を元に自分でも検算してみた」と一言添えると銀行担当者は「この人はなかなかの専門家だぞ」と安心するはずです。
その上で以下の資料を用意しておくことをお勧めします。
- 20年間の事業シミュレーション
- メンテナンスの内容や実施方法を記載した資料
- 連系予定時期
事業計画書の形でこれらの資料をまとめておくと銀行の回答が変わってきますよ。
まとめ
- 発電シミュレーションのシナリオを確認しよう
- 正しいと思われる発電シミュレーションを元に事業シミュレーションを作ろう
- 自分が「このシミュレーションが正しい」と思える根拠を持っておこう
コメント